ふるさと詩歌 ~ 唱歌『故郷』
◆唱歌『故郷』
作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一
兎追いし かの山
小鮒釣りし かの川
夢は今も めぐりて
忘れがたき 故郷
如何にいます 父母
恙(つつが)なしや 友がき
雨に風に つけても
思い出ずる 故郷
志を はたして
いつの日にか 帰らん
山は青き 故郷
水は清き 故郷
◇ ◇ ◇
この『故郷』は、『赤とんぼ』と並ぶ代表的愛唱歌です。
ある資料では、『赤とんぼ』、『故郷』、『夕焼け小焼け』、『朧月夜』、
『月の砂漠』、『みかんの花咲く丘』などが人気上位の愛唱歌となっています。
人それぞれの思いがありますから、順位はともかくとして、
童謡・唱歌には、日本人の心の原風景があるのだと思います。
それを多くの人と共有できることは幸せです。
幼い時の「ふるさと」の想い出は、なぜか淡く、それでいて心に沁みついているのです。
人と自然が共存し、豊かな生命力があふれていました。
それが失せていったとき、「志」までも失せたのかもしれません。
◇ ◇ ◇
作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一 のすばらしいコンビの主な作品を挙げておきます。
①明治43 『春が来た』
②明治44 『紅葉』
③大正1 『春の小川』
④大正3 『朧月夜』
⑤大正3 『故郷』
なお、
・明治45 『冬の夜』
・大正2 『冬景色』
もこのコンビの作という有力な説があるそうです。
◆志を果たした高野辰之のエピソード
作詞者の高野辰之(1876(明9)-1947(昭22))は、
22歳で寺の娘と結婚するとき、彼女の母親から条件をつけられました。
「将来、人力車で山門から入ってくるような男になること」と。
33歳(1909(明42))で、文部省小学校唱歌編纂委員、翌年東京音楽学校教授に。
作曲の岡野貞一と名曲を次々と世に出します。
もっともこの時点では、文部省唱歌であり、作詞者作曲者名は伏せられていました。
49歳(1925(大14))で文学博士となり、その年、故郷に錦を飾ります。
山高帽に口ひげで、義母との約束通り、人力車で山門から入ったとのこと。
「志を はたして いつの日にか 帰らん」
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