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ことば : 少し春ある心地

6日の午後、東京にまた雪が降った。
やや多めにチラついた。
春の淡雪に近かった。

 ◇ ◇ ◇

今からちょうど千年ほど前の、2月末頃のある日、
風が強く、空は暗く、雪がチラついていた。
宮中にいた清少納言のもとに使いが文を持ってきた。

それは藤原公任(和漢朗詠集の選者)からのもので、
<すこし春ある 心地こそすれ>
と下の句の七七が書かれていて、すぐに上の句を返せという。

公任のところには優れた歌人達が集まって、返事を待ち構えているに違いない。
下手な句では恥をかくし、遅れるのはもっとダメだ。
清少納言は「ええい、ままよ」と次の五七五の句をしたためて返した。

<空寒み 花にまがへて 散る雪に>
どう評価されるかと不安であった。
後で、「こういう句を返す女官は内侍に推薦したい」と褒められたと伝え聞いた。

注記)内侍は、女官の最高位

 ◇ ◇ ◇

『枕草子』第102段、清少納言の当意即妙の才能が発揮されたエピソード。
上の句も下の句も、唐の白楽天「白氏文集」の詩の一節を踏まえているという。
平安時代の貴族達の「遊び心」と教養のレベルの高さに感動させられる。