第2章~2)妓王の哀しみ(上)
◆白拍子妓王を清盛寵愛
今様(流行り歌)と舞の名手と評判の白拍子『妓王』は、清盛入道に寵愛された。
妹妓女・母もあやかって、厚遇された。
京中の白拍子もこれにあやかろうと、名前に「妓」の字を入れたりするのがはやった。
◆白拍子仏御前の登場
こうして三年経ったころ、都にまた白拍子の名手が現れた。十六歳の『仏御前』である。
仏御前は、「有名にはなったけれど、入道殿にお呼びいただけないのは残念だ。
芸人なのだから、こちらから売込みに行こう」と、清盛の館に出かけた。
◆仏御前、追い返される
仏御前が来たと聞いた清盛入道は、「白拍子などが召さぬのに来るとはけしからん。
その上、妓王もおる。そこへ神でも仏でも入れることはできぬ。 追い返せ」と命じた。
仏御前は、やむなく、車に乗って帰ろうとした。
◆妓王のとりなし
この様子を見ていた妓王が、「芸人が売込みに来るのは普通のことです。その上、まだ年も若いそうです。、
それをすげなく追い返すのはあわれでなりません。私も同じ立場でありました。
せめて、ご対面だけでもお願いいたします」と、とりなした。
妓王がそこまでいうならと、清盛は仏御前を呼び戻し、対面した。
清盛「妓王の強い願いで、会うことにした。今様を聴こう」
仏御前は、みごとに歌って、一座の人々を感嘆させた。
清盛「そなたは実に上手だ。今度は舞を見せてくれ」
仏御前は、またも、みごとに舞いおさめた。
清盛は、すっかり仏御前に心を奪われてしまった。
◆清盛、仏御前に乗換え
仏御前「私は、飛び込みで伺いました者でございます。
追い返されるところを妓王御前のおかげで、こうして機会を与えていただきました。
私をお側に置かれましては、妓王御前がどうお思いになるでしょう。すぐにお暇いただきたく存じます」
清盛「ならば、妓王に暇を出そう」
仏御前「なんということでございましょう。
二人共に召されることさえ心苦しく思われますのに。
妓王御前を追い出して、私一人となれば、妓王御前に申し訳が立ちません。
またのお召しがあれば参上いたしますので、今日はお返しください」
清盛「ならぬ。妓王をさっさと追い出せ」
<妓王もとより思ひまうけたる道なれども、さすがに昨日今日とは思ひよらず>
清盛がしきりにせかせるので、妓王は部屋を片付け、退出した。
その際、襖に一首の歌を書き残した。
<萌え出づるも 枯るるも同じ 野辺の草 いづれか秋に あはではつべき>
(芽吹くのも、枯れるのも、同じ野原の草花。いずれにしても秋には枯れ果てるのです)
〔栄えようとしている仏御前も、捨てられる私も、所詮は同じ白拍子。いつか飽きられて、捨てられるのです〕