読書:『露の玉垣』
◆『露の玉垣』を読了
12日、ようやく読了した、
・露の玉垣(新潮社 2007年):乙川 優三郎(絶版)
越後の新発田・溝口藩の藩士の生き方を著した歴史小説。
「小説新潮」に2006年6月号から連載された8短編が、単行本及び文庫本で発行された。
18世紀後半に家老を務めた溝口半兵衛の「世臣譜」=『露の玉垣』を素材にしている。
新潮社のHPから本書の紹介文を引用する:
度重なる水害や飢饉に喘ぐ越後新発田藩。
若き家老・溝口半兵衛は財政難に立ち向かう一方、二百年に及ぶ家臣の記録を書き始める。
後に「世臣譜」と題される列伝は細緻を極めて、故人の人間像にまで及ぶ。
そこにあるのは、身分を越えた貧苦との闘い、武家の葛藤、女たちの悲哀と希望である。
すべて実在した人物を通して武家社会の実像を描く、全八編の連作歴史小説集。
◆読後感(全般)
この小説には、立身出世や剣豪、武将、英雄、成功者などは登場しない。
生きることに苦悩し、生き方を悩む人間像が描かれている。
半兵衛の思いと乙川氏の思いが共振し、増幅して伝わってくる。
乙川氏は埋もれていた「世臣譜」を発掘し、それを小説として蘇らせてくれた。
「世臣譜」だけでなく、溝口藩の史料や関連資料を研究、実地踏査もされたと思う。
城下町・新発田に、全く新しい光を当ててくれた貴重な作品である。
◇ ◇ ◇
旧町名が多く出てくるので、古地図を参照しながら読むと、さらに、リアルさが増す。
藤沢周平は、鶴岡・酒井藩を仮想モデルにして、フィクションの歴史小説を書いた。
乙川氏は、新発田・溝口藩の史料を素材に、ノンフィクション的な歴史小説を書いた。
◇ ◇ ◇
なるべく多くの新発田市民に読むことをお薦めしたい。
しかし、江戸時代の元号、武家社会の制度などの基礎知識がないと、手強い小説だ。
参加者を募って、読書会を開催するのが良いかもしれない。
◇ ◇ ◇
小説の舞台な江戸時代であるが、どこか昨今の日本社会と通じるところも感じる。
華やかな元禄時代から、瞬く間に、窮乏の社会に転落した。
そして、窮乏は、いつの時代も、弱者に集中的に襲いかかるのである。
◇ ◇ ◇
この小説を読むと、元の「世臣譜」の内容を知りたくなる。
どなたか地元の方に、全文の解説書を編纂して欲しいものだ。
しっかりとした企画でプロジェクトとして実現できればと思う。
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